普洱茶で一抹の涼を

日本も広州も、酷暑が続いている。こんなときには広東人の魂、普洱茶 (プーアル茶) で涼をとってみるのはどうだろうか。大益茶といえば、普洱茶界のジオン公国と称される大企業で、大益のアンティークな普洱茶餅など、好事家の間でポケモンカード以上の値段で取引されている。数十年前の茶餅などはとても手を出せない値段だが、中産階級の日本人は大益の直営店で、世にも珍しい普洱茶のアイスクリームを楽しんでみよう。

 

場所は広州の下町随一のインスタ映えスポット、永慶坊。上下九というちょっと変わった名前の繁華街から、荔湾湖公園に至る一帯が、近年大規模に再開発された。永慶坊は、この再開発の目玉とも言うべき場所だ。これにより、昔ながらの古色蒼然とした静謐な「西關」の雰囲気は失われてしまったが、一定の経済効果は有るのだろう。休日など、以前と比較にならない人出の多さだ。ちなみに、ブルース・リーが幼少期に住んでいた家もここにある。

 

「大益茶庭」は、大益が総力を結集して作ったトレンディでオシャンティな普洱茶カフェだ。(たぶん) ここでしか食べられない普洱茶のアイスクリームは、蒸し暑い広州の街歩きに疲弊した身体を、ひんやりと癒してくれる。他にも、賞味期限が異常に短いフレッシュな普洱茶ソーダなどもあり、こちらも暑い日にはオススメ。近未来的な内装の店内では、普洱茶葉以外に、大益所有のプロ・バスケットボール・チームのグッズも販売されている。どうやらこのチーム、毎年のように中国国内リーグを制覇しているようで、まさにジオンの名に恥じない戦績だ。

 

【大益茶庭 (永庆坊店)】
广州市茘湾区恩宁路永庆大街21号
営業日時: 月〜日 11:00 – 21:00

広東人の LAWSON フィーバー拡大中

武漢から広東省へ出張中の日本人に朗報。ご周知のことと思うが、あの LAWSON が広東各地で続々と新店舗を展開している。武漢でコンビニと言えば、LAWSON (中百罗森) と Today (今天) だろう。近年はセブン-イレブンの躍進も目覚ましいが、すでにして LAWSON に飼い慣らされた武漢系日本人は、こと広東において深刻な LAWSON ロスに苛まされてきた。そんな中、武漢でお馴染みの「中百」LAWSON でこそないが、とにかく LAWSON が猛烈な勢いで店舗数を拡大しているのはありがたい。

 

写真はつい最近、広州市内の越秀公園前に開店したもの。佛山市内でも、すでに 2 店舗がオープンしたと聞く。

 

そして国境の街、珠海でも LAWSON プロジェクトが始動している。富華里や新都心をふくめ複数店舗の開業が予定されているようだ。今回、取材に訪れたのは、前山地区で最も集客力のあるショッピングモール、珠海環宇城の一階。環宇城の 6 号門と言っても分かりにくいが、ショッピングモールとルネッサンス・ホテル (珠海中海万麗酒店) を繋ぐ、前山河に面した大がかりな車寄せの脇で、内装工事を行っていた。

 

第二の故郷、武漢を遠く離れて、どうしても珠海に宿泊しなければならない場合。ルネッサンス珠海を選べば、徒歩圏内にいつもの青いコンビニが有るので、ちょっとだけ安心だ。

聖地巡礼: 少林サッカー

「男たちの挽歌 (英雄本色)」なら銅鑼湾のチョウ・ユンファ車清掃ビル、「インファナル・アフェア (無間道)」なら上環のアンソニー・ウォン墜落ビル、「ファイト・バック・トゥー・スクール 2 (逃學威龍 2)」なら寳馬山の漢基國際学校など、香港には、香港映画を生き甲斐とする日本人のテンションがおかしくなる、映画ロケ地が数多く存在する。それは、広大とは言えない香港であれだけの数の映画を生み出したのだから、ファンが巡礼すべき聖地が至るところにあって当たり前とも言えるが。。。翻って、80 年代以降の香港映画黄金期には、広州や深圳などの中国本土はあくまで映画の味付けとしてしか登場せず、本格的な本土ロケと言えば、香港で撮影しにくい時代劇や戦争シーンなどがメインだった。

 

1999 年、世界の映画界を震撼させた一本の映画が、珠海で撮影される。2001 年公開の「少林サッカー (少林足球)」だ。すでに「食神」や「喜劇之王」で、香港では飛ぶ鳥を落とす勢いだったチャウ・シンチーの実質的世界デビュー作。今作は、当時の香港映画興行収入記録をかるく塗り替え、じつに世界 32 か国で上映された。

 

この記念碑的映画の多くの部分が珠海で撮影されたことは意外に知られていない。今回、訪れたのはヒロイン (ヴィッキー・チャオ) の勤務する饅頭屋の店先。ここでヒロインが披露する太極拳がのちのストーリー展開にも大きな役割を果たす。また、有名なダンスのシーンの背景に映り込む、香山公園の南門もこの店の向かいにある。率直に言ってしまえば珠海市内のどこにでもありそうな路地だが、ロケハンでここを見つけ出したスタッフの慧眼により、映画史に残る名場面が生まれた。広州在住の香港映画ファン、シンチー・ファンには、一度は訪れていただきたい珠海の名所だ。

 

他にも、決勝戦の宿舎は珠海度假村酒店、決勝戦は珠海市体育中心のスタジアム、どちらも珠海市内で撮影されている。

橋の解体工事 (珠海)

 

珠海の大動脈、九洲大道と珠海大道を繋ぐ前山大橋の側道の橋が解体されている。これだけでは一体どこの話だ?と広州在住の日本人の皆さまからご叱責を賜りそうだが、珠海の都心部から珠海空港へ行くときに、必ず通る幹線道路が珠海大道だと言えば分かりやすいかもしれない。前山大橋は、都心側の九洲大道に入る交差点ではげしく渋滞するので、側道的な役割を果たす「簡易橋」を経由すると渋滞を回避でき、何かと使い勝手がよかった。簡単な橋脚の上に鉄板を載せた程度のシンプルな作りだが、水面との距離も近く、ちょっとだけ生活に潤いを与えてくれる存在だった。

 

とくに前山河には、随所にこのような橋がかかっていて、市民生活の一部となっている。橋の上で、日がな一日、魚釣りと言うか、かなり本格的な漁をしているおっさんは、まぎれもなく珠海の風物詩だ。とは言うものの、前山河で採れた魚はあまり食用には適さないとも聞いた。それでも時間のあり余ってそうなおっさんたちの、社交場としての役割は果たしているのだろう。言葉は聞き取れないが、釣れた魚を前に侃侃諤諤の大騒ぎをしているのを見ていると、こちらまでなんとなく楽しくなる。

 

鉄板剥き出しのツルツルの歩道の上を、出前のバイクが猛スピードで駆け抜けたりするので、この橋の上では事故が絶えなかったと聞く。解体の理由は、市民団体からのクレームなのか、単にその役目を全うしただけなのか、寡聞にして存じ上げないが、コンクリートジャングルの陽気な漁師たちに会えなくなるかと思うと、ちょっと残念だ。このようにして、珠海も少しずつ「都市化」されていくのだろうか。。。

 

なお、広州 – 珠海間の移動については、当ウェブサイト内の「珠海から広州へバスで」も参照していただきたい。 https://www.guangzhou.jp/buskwc.html

珠海通で熱きデュエルを

 

東京のSuica、名古屋の manaca、香港の Octopus、バンコクの Rabbit Card、そしてもちろん広州の羊城通と武漢の武漢通。在中日本人の交通系 IC カードコレクターなら、これくらいは軽くコレクションされていることだろう。しかし、これだけでは画竜点睛を欠くと言うもの。今回は、交通系カード界のブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン (青眼の白龍; 攻: 3000, 守: 2500) 、幻の「珠海通」をご紹介する。

 

珠海通は、公式ホームページによると珠海各所で買えるらしいが、どうも場所によって買えたり買えなかったり。このあたりいかにも南国の珠海らしい。そもそも珠海に到着したらすぐに入手したい代物なので、鉄道で珠海を訪れた方は、珠海駅前のバスターミナル隣にある自動販売機で購入するのが最も簡便だろう。珠海通公交卡自助服務点は、一見、バスの運転手さんの休憩所みたいで、邪魔したら怒られそうな雰囲気だが、勇気を出して入ってみよう。中にはカードの自動販売機が 2 台、寂しく設置してある。あとは「自助购卡」のボタンから、珠海通を購入するだけだ。ただ、この自動販売機、故障中のこともしばしばで、ことさら珠海通の SSR っぷりに拍車をかけている。

 

艱難辛苦の末、美麗なデザインの珠海通を入手できた暁には、あなたも交通系カード界隈の立派なデュエリストだ!滅びのバーストストリームで、Suica や Octopus などの都会系洒落乙カードを一蹴することができる。

 

なお、広州 – 珠海間の移動については、当ウェブサイト内の「珠海から広州へバスで」も参照していただきたい。 https://www.guangzhou.jp/buskwc.html

広州のガパオライス

広州人はタイ料理好きだと思う。「食在広州 (食は広州に在り)」。たしかに広東料理は、数ある中国料理のなかでも、群を抜いて繊細で美味しい。決して上品とは言えない広東語の響きに囲まれて育って、どうしてこれほどまでに繊細な味付けができるのか謎ですらある。とは言え、広東料理なんて、一人で気軽に食べられるものでもないし、毎日食べるようなものでもない。そこで登場するのが、タイやベトナムと言ったエスニック料理だ。広東料理とも歴史や文化の根っこでなにかしら繋がっているだろうし、何よりお手軽で少人数でも楽しめる。広州の繁華街で、タイ料理の人気店はいつでも長蛇の列だ。

 

それほどまでに愛されている広州のタイ料理だが、残念ながら欠点も有る。刺激物に慣れていない広州人の味覚に合わせてあるので、とにかく甘いのだ。辛味と酸味のハーモニーを期待するトムヤムクン (ต้มยำกุ้ง) など、これじゃココナッツミルク・スープだろ!と怒りを覚えるほどに甘い。

 

そして、最近日本で人気赤丸急上昇中のガパオ (กะเพรา) 。挽肉炒めご飯などと勘違いされがちなガパオだが、本来の意味はバジル炒めご飯。実はガパオの生命は、挽肉ではなくホーリーバジルにある。しかし広州ガパオ研究会が総力を結集して、広州各地でフィールドワークを敢行したところ、ホーリーバジルを使った本場モノの発見には至らなかった。まあ仕方ない、ここはバンコクではないのだから。せめてスウィートバジルを使っていれば合格としたいのだが、セロリやら謎の野菜やらを投入して、オリジナリティを発揮したものがやけに多い。店名はあえて伏せるが、写真は広州で遭遇した正体不明の一皿。ここまで来ると、もはや原型を留めていない。

広州で本場の熱乾麺!

「武漢人のスガキヤ」こと「蔡林記」の熱乾麺 (热干面) が広州でも食べられる。武漢から広州にご栄転されたものの、熱乾麺ロスに苦しんでおられる日本人は意外に多い。なにしろ、朝食は必ず熱乾麺と決めている日本人総経理だって、武漢には居るのだ。という訳で、困った時には、広州で蔡林記を探してみよう。

 

蔡林記は高級レストランではなく、四季美などと共に武漢を代表する小吃店だ。1928 年、漢口で創業と歴史は古く、フランチャイズ化した現在では、空港やターミナル駅を含む武漢のおよそあらゆる場所で見かけることができる。こと武漢市内においては、熱乾麺の味は安定して美味しいので、なにも蔡林記にこだわる必要もないのだが、これが広東省となると事情が違ってくる。広州、深圳、珠海で、気をつけて街を歩いていれば熱乾麺を売りにした店を発見することは難しくない。しかし、味はたいがい期待外れだ。そもそも四川名物や重慶名物と一緒くたに熱乾麺を売っている店で、ナウでグルメな武漢系日本人の舌を満足させることなんてできる訳がない。

 

そんなことで時間とエネルギーを無駄にするのなら、最初から蔡林記に行ってしまえば、全て解決だ。値段は武漢より高いし、あの紙のお椀も使われていないが、とにかく本場の味が楽しめる。さらに、三鮮豆皮や蓮根スープなど、メニューを見ているだけで、グッと込み上げてくるものがある。商都広州の煩雑な生活に疲れ、ふるさとの訛りと味が懐かしくなった時に、ぜひ訪れてみてほしい。

 

【蔡林记 (中信店)】
广州市天河区天河北路233号中信广场2楼
営業日時: 月〜日 8:00 – 21:00

その他、広州市内に店舗有り

ゴンチカの茶餐廳 (珠海)

拱北口岸地下商場 (通称: ゴンチカ) 。かつて珠海へのアクセスが、マカオからの陸路と、香港、深圳からの海路にほぼ限定されていた頃、ゴンチカは経済特区珠海の繁栄を象徴する場所だった。マカオから拱北ボーダーを越えて、珠海に入るといきなり姿を現す広大な地下ショッピングモール。半円状に四方八方へと広がる通路は、ちょっとしたダンジョンの様相を呈していた。衣類やカバン類はもちろんのこと、携帯電話などの電子機器 (スマートフォンなんてこの世に存在していない時代) から大人の事情でやたらと安いブランド物まで、当時のゴンチカで手に入らないものなど無かった。

 

それほどの栄華を誇ったゴンチカも、珠海 – マカオ間のボーダー増設や新都心の開発、経済構造の変化に伴い、現在は縮小傾向にある。以前は地下 2 階まで個人商店やスーパーがずらりと並んでいたが、今は地下 1 階のみ。地下 2 階は急造の駐車場になってしまった。

 

そんなゴンチカで長く営業を続けた、マカオ式茶餐廳がひっそりと閉店していたので、記憶に留めるため、記事にしておく。このショッピングモールで、マカオ側を背にして右側は、以前から飲食店が集中する場所だった。その中でも最大の規模と人気だったのが、新寳餐廳だ。メニューの基本はマカオ式の茶餐廳で、おなじみのミルクティーやレモンティーの他、マカオ式の猪扒包 (ポークチョップサンド) などを提供しているのが香港や広州と違う。こうした定番メニューに加え、麺類などの中国料理も普通以上に美味しかった。ゴンチカにしてはかなり広めの店内はいつも満席で、注文を取ってもらうのも一苦労。国境地帯特有のエネルギーと喧騒に溢れた雰囲気で、客たちは広東語や中国語でいつも大声で捲し立てている。日本人にもファンは多かったようだが、近年の時流には逆らえなかったのか、気がついたらその歴史に幕を下ろしていた。

老兵は死なず、ただ消え去るのみ。

陽江で社会見学

 

陽江の刀剣工作室については、インパクトのある内容ゆえか、とくに在中歴の長い日本人の皆さんから大きな反響をいただいた。とはいえ、シリアスに刃物の町をご紹介するはずが、嬉々として世紀末と揶揄しているように受け取られかねない表現が一部にあり、猛省している次第。陽江市は、洗練された大都会です。この町のネガティブ・キャンペーンを張ったなどとあらぬ誤解を受けても困るので、あらためて陽江の主力商品の一つ、平和的かつ近代的なハサミ工場の様子をお届けする。

 

どこぞの武器屋と違い、こちらの工場は敷地も広く、なかなかの大規模設備と量産体制を誇っている。主な輸出先は欧米諸国だそうで、日本の百円ショップで買えるモノよりかなり高級だ。ちなみに、欧米人のセンスが 60 年代で止まっているのか、独自の営業戦略なのかは分からないが、なんだかサイケデリック (死語) なモデルが多い。

 

社長のご厚意により、刃に柄を取り付ける工程、2 枚の刃が組み合わさってハサミの形になる工程、出来上がった製品を包装する工程など、つぶさに見学させていただいた。それにしても、この工場には人が多い!ハサミにオートメーションも AI も関係ないのだろうが、人海戦術で、一心不乱にガシャンガシャンとハサミを作り続ける工員を見ていると、産業革命、囲い込みなどの単語が頭にチラつく。時は、まさに改革開放。刃物の町の名声を支えているのは、案外、昨日まで広東の海で漁をしていたおばちゃんたちなのかもしれない。

 

刃物の町

広東省陽江市。広州から車で飛ばして 3 時間、珠海から 2 時間。風光明媚な海沿いの街ゆえ海鮮料理で有名だが、中国随一の「刃物の町」でもある。じつに中国の刃物輸出の 8 割が、陽江からと言うから驚きだ。そんな物騒な称号に負けじとばかりに、陽江の路上は族気質強めのバイクで溢れ、2020 年代にしてなお北斗の拳の風情をたっぷりと味わうことができる。ラッシュ時の赤信号では、「カッとぼうぜっ!!」とばかりに大規模なゼロヨンが自然発生するので要注意。

 

今回、ご縁があって、そんな陽江でも珍しい刀剣工房にお邪魔した。武器商人なんて、某ロールプレイング・ゲームで装備を整えるときにしかお世話にならないと思っていたが、人生分からないものである。これも広東駐在の役得と言うべきか。工房は、期待を上回る荒涼とした土地に有り、周囲には管理者の定かでない家畜やら、野犬やらが闊歩している。過保護に育てられた日本人の感覚的には、工房と言うより、収容施設と言った趣きだ。

 

このところ、日本ではちょっとした日本刀ブームで資産家の投資対象にもなっているようだが、こちらの刀剣の価値は不明。なんだか使い道の分からない物騒な武具まで登場したが、どうせ持ち帰れないし、持ち帰りたくもない。それに、柔よく剛を制す、専守防衛、汚物は消毒が私の信条だ。

 

秘境でもないが、都会でもない陽江。垢抜けて脱色された、最近のシャバい広州が物足りないあなたなら、存分に楽しめるかもしれない。